習慣と心のケア
子どもの算数への苦手意識・不安:サインと原因、家庭でできること
算数への不安(算数不安)とは何か、5〜10歳に見られるサイン、親の不安やタイム練習との関係、家庭でできる8つのこと、先生や医師に相談する目安を解説します。

まず結論
算数への不安は、答えを知っていても考えが止まってしまうほどの、算数に対する緊張や怖さです。1年生のころから見られることがあります。大人自身が算数に落ち着いて向き合い、速さではなく努力や考え方をほめ、タイマーをやめ、短くできる練習にしましょう。不安が何度もぶり返すなら担任の先生に、不安が広がったり睡眠や遊び、登校に影響したりするなら小児科医に相談しましょう。
要点まとめ
- 算数への不安は気持ちの問題で、能力の不足ではありません。英国の大規模な研究では、算数への不安が強い子の多くは、算数の成績はふつうでした。
- 早い時期から始まることがあり、研究者は1・2年生でも測定しています。日本の小学4年生で「算数の勉強は楽しい」と答えた割合は70%で、国際平均の81%より低めです(TIMSS 2023)。
- 大人の気持ちも影響します。 米国の研究では、算数に不安をもつ親の子は1年間の算数の伸びが小さかったのですが、それは親が宿題をよく手伝っていた場合だけでした。
- 助けになるのは、落ち着いた短い練習、努力と考え方へのほめ言葉、タイマーなし、ドリルより遊びです。
- 担任の先生には早めに。不安が続く、悪化する、生活に影響するときは小児科医に相談しましょう。
算数への不安(算数不安)とは?
算数への不安とは、算数がかかわる場面で感じる緊張や心配、怖さのことです。ケンブリッジ大学の研究チームは、算数をするときに多くの人が感じる「不安、緊張、不快感」と説明し、算数の学び方の問題というより、主に気持ちの問題だと強調しています。日本では「算数嫌い」「算数が苦手」と言われる状態の中に、この不安がかくれていることもあります。
不安は、計算の途中で数を一時的にとどめておく頭の中の作業台、ワーキングメモリを使ってしまいます。だから、不安を感じている子は、食卓では 7 + 5 で頭が真っ白になるのに、車の中ではすんなり答えられる、ということが起こります。
- 早くから始まることがある。 米国の1・2年生154人の研究では、ワーキングメモリの高い子どもで、すでに算数への不安と成績の低さが結びついていました。
- 「算数ができない」とは同じではない。 1,700人以上の小・中学生を対象にした英国のプロジェクトでは、算数への不安が強い子の多くは、算数の成績はふつうでした。
- 悪循環になりやすい。 不安が算数を難しくし、うまくいかないことが不安をさらに強めます。研究者はこれを悪循環と表現しています。だからこそ、気持ちと力の両方に働きかけることが大切です。
日本の子どもの様子も見ておきましょう。国際調査TIMSS 2023で「算数の勉強は楽しい」と答えた小学4年生は日本で70%(国際平均81%)、「算数が苦手だ」に「そう思わない」と答えた子は56%(国際平均64%)でした。どちらも前回2019年の調査(77%、65%)より下がっています。
5〜10歳に見られる算数への不安のサイン
小さい子が「算数が不安」と言葉にすることは、ほとんどありません。ほかの場面では見られず、算数のときにだけくり返し出てくる様子に目を向けましょう。どのサインも、疲れや学校でのいやな出来事など、ほかの原因で起こることもあります。
5〜7歳
- 算数の宿題を出したとたんに、涙、かんしゃく、急な腹痛
- やってみる前から「できない」「ぼくはばかだから」と言う
- 早く終わらせたくて、当てずっぽうで答えたり、写したりする
- 指で数えることを、ずるいことのようにかくす
8〜10歳
- タイムを計る小テストや早押しの問題で固まり、あとになると答えがわかる
- 「自分は算数に向いていない」と言う、友だちとくらべて落ちこむ
- 宿題を避ける、プリントを「なくす」、テストの日に休みたがる
- 算数の時間に、どきどきする、手に汗をかく、気持ちが悪くなると話す

ヒント 1回ではなく、くり返しを見る
1晩うまくいかなかっただけでは、算数への不安とはいえません。何度もくり返し、音読や遊びでは出ないのに算数のときだけ出てくる様子なら、お子さまや担任の先生とやさしく話してみる価値があります。
なぜ子どもは算数が不安になるの?
原因が1つだけということは、めったにありません。ケンブリッジ大学のチームは、もともと心配しやすい性格、プレッシャーの中でパニックになりやすいこと、以前に算数でつまずいた経験など、いくつかの要因が重なって不安が育つと考えています。また、大人自身の算数への不安が子どもに影響する可能性にも注意をうながしています。
親や先生の算数への不安
子どもは、大人が数に対してどう感じているかをよく見ています。1・2年生を対象にした研究(Maloneyら、2015年)では、算数に不安をもつ親の子どもは、1年間で学んだ算数が少なく、年度末には算数への不安も強くなっていました。ただしそれは、親が算数の宿題をよく手伝っていた場合だけでした。手伝う回数が少ない場合、親の不安は子どもの算数の成績や気持ちと結びついておらず、国語(読み)の成績とも関係がありませんでした。
教室でも似た傾向が見られます。1・2年生の女性の先生の算数への不安が強いと、年度末には、そのクラスの女子が「男の子は算数が得意、女の子は国語が得意」と考えやすくなり、そう考えた女子の算数の成績は低くなっていました(Beilockら、2010年)。
これは、算数が不安な親は算数から離れるべきだ、という意味ではありません。大切なのは手伝い方です。うれしい研究もあります。家族でタブレットのアプリを使って短い算数のお話問題に取り組んだ1年生は、読みの活動をしたグループより1年間の算数の伸びが大きく、その効果は算数に不安をもつ親の子どもでとくに大きくなりました(Berkowitzら、2015年)。
家庭でできる8つのこと
- 算数についての言葉に気をつける。「お母さんも昔から算数は苦手で」より「算数は練習が必要だったし、いまもそうだよ」。ケンブリッジ大学の研究者は、大人が自分の算数への不安に向き合うことが、子どもを助ける第一歩かもしれないとしています。
- 宿題の手伝いは短く、落ち着いて。 算数で自分が緊張するなら、手伝う回数を減らして質を上げましょう。問題をいっしょに読み、「わかっていることは何?」と聞いたら、一歩下がります。困ったら「先生に聞いてみよう」で十分です。
- 宿題ではない算数を足す。 すごろく、料理、買い物なら、算数が遊びに感じられます。おうちでできる算数ゲームを参考にしてください。
- 速さや頭のよさではなく、努力と考え方をほめる。「頭がいいね」ではなく「2通り試して、2つ目でうまくいったね」。米国の研究では、幼児期に親から努力をほめられることが多かった子は、7〜8歳で「能力は伸ばせる」と考えやすくなっていました。
- 気持ちに名前をつけて、課題を小さくする。「いまは算数がこわく感じるんだね。最初の2問だけやってみよう」。小さな成功が自信を取り戻します。
- 落ち着く方法を練習しておく。 お子さまがリラックスしているときに、ゆっくりおなかで呼吸する練習をしておくと、算数がつらいときに使えます。米国小児科学会も、落ち着いているときに深呼吸や前向きな言葉かけなどの対処法を話し合うことをすすめています。
- まちがいを手がかりとして扱う。「このまちがいから何がわかる?」と聞き、大人のまちがいも見せましょう。「34 + 18 を最初42にしちゃった。くり上がりの10を忘れてた。52だね」。
- 算数をまったく避けるのはやめる。 避けると不安は育ちます。何もしないより、少しずつ、こまめに、できる分だけ。米国小児科学会の言葉を借りれば「目標は避けることではなく、うまく対処すること」です。

ヒント 今夜やってみよう
紙の上に正解も不正解もない、数くらべトランプ(大きいカードを出した人の勝ち)を1回だけ遊びましょう。笑って、10分以内で終え、宿題の話はしません。
タイムを計るテストは不安のもと?
学校では、九九カードや百ます計算のように、時間を計って計算する練習がよく行われます。これについては専門家の意見が分かれています。スタンフォード大学のJo Boaler教授(youcubed)は、ストレスが答えを思い出すのに必要なワーキングメモリをふさいでしまうため、時間制限のあるテストは早い時期から算数への不安を引き起こしうると主張しています。一方、米国教育省のWhat Works Clearinghouseの2021年の実践ガイドは、算数につまずいている子に対して短い時間を計る活動が役立つとし、方略を学んでから、1〜5分ほどで、記録は人に見せず、自分の前の記録と比べる形で行うことをすすめています。
先生や医師に相談する目安は?
担任の先生には早めに相談しましょう。苦情ではなく、先生に知っておいてほしい情報を伝えるのです。先生は、家庭とはちがうお子さまの姿を見ています。次のような様子があれば、話してみる価値があります。
- 算数への心配が何度もぶり返す
- 学校で算数を避けたり、算数の時間に気分が悪くなると話したりする
- 短い宿題でも、たびたび涙で終わる
- 家庭で落ち着いて手伝いを続けても、算数がとても難しいまま
聞いてみたいこと:何が難しそうですか?テストのときだけ固まりますか、ふだんの学習でもですか?クラスではどんな考え方や言葉を使っていますか(家庭でも同じものを使うため)?プレッシャーの少ない形で自信をつける方法はありますか?学校によっては、スクールカウンセラーに相談できる日も設けられています。
不安がなくならない、悪くなっている、または夜ひとりで寝る、外で遊ぶ、学校へ行くといった日常の生活のじゃまになっているときは、かかりつけの小児科医に相談しましょう。米国小児科学会も、これらを専門家の支援を考えるサインとして挙げています。心配が算数をこえて広がっているときも同じです。
気持ちのつまずきと学習のつまずきでは、必要な支えがちがいます。落ち着いているときでも算数がずっと難しいままなら、数の力をくわしく見てもらえないか、学校に相談してみましょう。
算数の練習を、もう一度安心できる時間にするには
- お子さまのレベルより少し下から始める。 やさしい問題で「できた」を重ねるのが、「自分にもできる」を取り戻すいちばんの近道です。そこから少しずつ上げます。
- 時間は短く。 5〜10分で、できたところで終えます。
- くらべるのは、過去のお子さまだけ。「先週はこれが難しかったのに、いまはできるね」。
- 正解だけでなく、勇気を出した挑戦をほめる。 米国小児科学会も、勇気ある行動をほめ、ごほうびを与えることをすすめています。家庭での算数全体についてはおうちで算数を教えるをご覧ください。
よくある質問
6歳でも算数への不安はありますか?
あります。研究者は1・2年生でも算数への不安を測定しており、すでに成績の低さと結びついていた子もいました。だからこそ、早めにやさしく対応する価値があります。
算数への不安は、算数ができないこととは同じですか?
いいえ。英国の大規模な研究では、算数への不安が強い子の多くは、算数の成績はふつうでした。ただし不安があると、とくに時間のプレッシャーの中で、わかっていることを出せなくなることがあります。
親の算数への苦手意識は、子どもにうつりますか?
影響することがあります。2015年の研究では、算数に不安をもつ親の子どもは1年間で学んだ算数が少なく、不安も強くなっていましたが、それは親が宿題をよく手伝っていた場合だけでした。どう手伝うかが大切です。
自分が算数に不安なら、宿題を手伝わないほうがいいですか?
そうとはかぎりません。手伝いは短く落ち着いて、教え直すより質問を中心にし、ゲームや料理などのリラックスした算数を足しましょう。学校のやり方がわからないときは、担任の先生に聞いてみてください。
百ます計算のようなタイムを計る練習は、不安の原因になりますか?
スタンフォード大学のJo Boaler教授のように大きなきっかけになると考える専門家もいれば、プレッシャーの少ない短い時間練習は一部の子に役立つとする研究もあります。家庭でタイマーを使う必要はなく、学校の時間練習がつらそうなら、先生にほかの方法を相談できます。
算数への不安は、どんなときに心配すればいいですか?
算数への心配が何度もぶり返す、学校で算数を避けるといった様子があれば担任の先生に相談しましょう。不安が悪化する、算数以外にも広がる、睡眠や遊び、登校に影響するときは、小児科医に相談しましょう。
出典
Edict DigitalのMatoburチームが執筆し、以下の出典と照らし合わせて確認しました:
- TIMSS2023の結果(概要)のポイント(令和6年12月) (新しいタブで開きます)文部科学省・国立教育政策研究所
- Assisting Students Struggling with Mathematics: Intervention in the Elementary Grades(実践ガイド、2021年) (新しいタブで開きます)What Works Clearinghouse(米国教育省 教育科学研究所)
- Understanding Mathematics Anxiety: investigating the experiences of UK primary and secondary school students(Carey et al., 2019、要約) (新しいタブで開きます)ケンブリッジ大学 Centre for Neuroscience in Education
- Ramirez, G., et al. (2013). Math anxiety, working memory, and math achievement in early elementary school. Journal of Cognition and Development, 14(2) (新しいタブで開きます)ERIC(米国教育省 教育科学研究所)
- Maloney, E. A., et al. (2015). Intergenerational effects of parents' math anxiety on children's math achievement and anxiety. Psychological Science, 26(9) (新しいタブで開きます)Psychological Science(PubMed)
- Beilock, S. L., et al. (2010). Female teachers' math anxiety affects girls' math achievement. PNAS, 107(5) (新しいタブで開きます)Proceedings of the National Academy of Sciences(PubMed)
- Berkowitz, T., et al. (2015). Math at home adds up to achievement in school. Science, 350(6257) (新しいタブで開きます)Science(PubMed)
- Gunderson, E. A., et al. (2013). Parent praise to 1- to 3-year-olds predicts children's motivational frameworks 5 years later. Child Development, 84(5) (新しいタブで開きます)Child Development(PubMed)
- Research suggests that timed tests cause math anxiety(Boaler, 2014, Teaching Children Mathematics) (新しいタブで開きます)youcubed(スタンフォード大学)
- Help Your Child Manage Anxiety: Tips for Home & School (新しいタブで開きます)HealthyChildren.org(米国小児科学会)